アドラー心理学についてスムーズに理解するためには、アドラー心理学における『人間観』について理解するのが近道だと思うので、補助線を引いた後に、説明したいと思います。
経済人
アドラー心理学における人間観について説明する前に、経済学における人間観について説明することからはじめましょう。
経済学では、「経済人」を前提にしています。「経済人」とは、法人と消費者を含む概念です。法人は、利潤を最大にすべく計画し行動します。また消費者もまた、効用を最大にすべく行動します。
このような経済人と経済人が行動する市場をもって、資本主義は定義されるのです。
あなたは「そんなの当たり前じゃないか?」と思うかもしれません。しかし資本主義より前の時代(前期資本主義)においては、当たり前ではなかったのです。
たとえばアメリカの有名な経済学者、アルヴィン・ハーヴィ・ハンセン(ハーバード大学教授)がインドのあるコミュニティの改革にたずさわったときのことです。
ハンセン教授の努力によって、生産力は二倍になりました。そこでハンセン教授は、このコミュニティ住民の生活水準は、おそらく二倍になるだろうと考えました。アメリカ人であったハンセン教授からすれば、当然の考え方です。
ところが翌年、ハンセン教授がもう一度コミュニティの生活水準を確認すると、とても驚きました。なぜならばコミュニティの生活水準は、もとのままだったからです。
びっくりしたハンセン教授が調べてみると、コミュニティの住民たちは、生産性が二倍になったことにより、労働時間を半分にしていたのです。
なぜコミュニティの住民たちは、生産性が二倍になった時に、労働時間をそのままにして生活水準を二倍にしなかったのでしょうか?
理由はシンプルです。このコミュニティーの住民たちの関心は、伝統的生活水準を維持することにあったのであって、「利潤の最大化」や「効用の最大化」に関心があったわけではなかったのです。以上のことから何がわかるでしょうか?
経済学は「経済人」を前提にしているので、「経済人」とかけ離れた人たちしかいない社会においては、経済学は役に立たないのです。当たり前といえば、当たり前の話なのですが、当たり前の話を忘れてしまうことは珍しくありません。
アドラーの人間観
経済学が「経済人」を前提にしているわけですが、アドラーはどのような『人間』を前提にしているのでしょうか?
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